研究紹介

放射光は、非常に強いX線を、希望したエネルギーで、かつ高いエネルギー分解能で安定して取り出すことのできる装置で、物質の電気的、磁気的性質、光学的応答を司る電子状態、振動状態などを、その成因にまでさかのぼって調べることができます。 私たちは世界最高輝度の大型放射光施設 SPring-8(スプリングエイト)において、紫外光とX線の中間に位置する ‘軟X線’ と呼ばれる光を用いて新しい分光法を開拓し、物性研究に応用しています。特に、光散乱の一種である軟X線非弾性散乱分光の将来性に着目し、世界に先駆けて電池などの機能材料の動作中の(オペランド)分光や種々の溶液の分光を手掛けてきました。 その結果、電極材料において従来とは全く異なる電荷授受のメカニズムを見出したり、水のミクロ不均一構造、固液界面に形成される特異な水の状態(下図)など、多くの予期せぬ発見をしています。新しい観測の眼が、新しい常識を作る原動力になります。

原田研究室 研究紹介

 

高分子電解質ブラシの中に浸透した水( Confined water)。防汚性や低摩擦性などの機能を付与する。

原田研究室 研究紹

 

軟X線非弾性散乱で捉えた常温の水(緑)、氷(青)と高分子電解質ポリマーブラシに浸透した水(赤)の比較。ブラシ中の水は、あたかも常温の氷のような状態で存在していることがわかった。1b1’, 1b1’’はそれぞれ4配位の水、歪んだ水素結合をもった水を特徴付けるピーク。

メッセージ

光そのものに心惹かれたのが原点。ひとつのことに興味を持つこと、そこから離れていかにスペクトル幅を広げていけるかが研究者に必要な資質だと思います。

物理工学科に在籍していた頃、狩野覚先生の特別講義で「葉っぱが緑色に見えると言っても、その中にはいろんな過程があるんですよ」という話を聞いて、光と物質の相互作用の根幹に関わる研究がしたいと思いました。 私たちが現在研究している軟X 線発光分光は、軟X線という光で見た物質の「色」を調べる手法です。見た目の色と違って、磁気的、電気的性質の起源から不規則な系の構造まで様々な情報を含み、物質を形作る各元素が独特の「色」を発します。この手法は試料を選ばないため、どのような「物質」を測定しても、これまで観測できなかった新しい情報が得られます。例えば水を軟X線で見ると、水素結合の源となる価電子のエネルギー分布がわかります。 2008年に我々が公表した水の2状態モデルを裏付ける論文は世界中で議論になり、水の国際会議で未だに論争が続いています。新しい研究対象を選べば、あっという間にその研究分野の中核に入り込んでしまうのです。

物質系専攻を志す学生へ

ある研究から生まれた様々な興味が新たな視野をひらき、それを橋渡しとして新しい研究分野に飛び込むことができます。自分の興味を知ること、そこからいかに興味のスペクトル幅を広げてゆけるかが研究者に必要な資質であると私は思います。

プロフィール

原田 慈久 教授

原田 慈久 教授

1995年 東京大学工学部物理工学科卒業

2000年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了

2000年 理化学研究所播磨研究所基礎科学特別研究員

2003年 理化学研究所播磨研究所連携研究員

2007年 東京大学大学院工学系研究科特任講師

2009年 東京大学大学院工学系研究科特任准教授

2011年 東京大学物性研究所准教授

2018年 東京大学物性研究所教授

学生の声

亀田 絢子

亀田 絢子 さん

原田先生は軟X線研究の第一線でご活躍されており、日々新たな研究対象を開拓しておられます。また、学生指導にも熱心で、丁寧に、そして熱く!コメントをくださいますし、気さくに様々な相談にのってくださいます。 

原田研究室の特徴は、拠点が大型放射光施設SPring-8内にあり、豊富な装置と多くの研究者に囲まれながら研究を行えるところです。

海外出身のメンバーも多く、贅沢な環境とグローバルな雰囲気(、そして大自然!)の中で毎日楽しく活動しています!


物質系専攻を志す学生へ

物性研究所では、物理・化学・生物など様々な分野の出身者が最先端の研究を展開しています。希望の研究室を決定する際には、是非一度研究室の先生や学生と接触し、研究内容を詳しく知る機会を得ることを(強く!)おすすめします!

研究室訪問

  • 0791-58-0802-3966[播磨分室]
  • 04-7136-3401[柏キャンパス]
  • 277-8561
  • 千葉県柏市柏の葉5-1-5
  • 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻
  • 原田慈久教授研究室
  • harada@issp.u-tokyo.ac.jp