Research challenges
外国にルーツをもつ子どもとは、子どもの国籍が日本ではなく外国籍で、母国語も日本語ではなく他の言語である、さらに、両親のいずれかの母国語が日本語以外で、現在外国籍または元外国籍である場合をいう。外国にルーツをもつ障害のある子どもは、外国にルーツをもつ障害のない子どもと同様に、低い日本語能力、移住による環境変化、異なる文化と習慣を背景とした課題を抱えているが、これらに加えて、障害を背景とした困難も抱えているため、学習面と行動面を含め、学校生活全体への支援が難しくなり、障害のある日本人の子どもと比べ、教育や指導を行う際に、最も課題があると考えられる。以下、外国にルーツをもつ障害のある子どもの低い日本語力と障害の特徴に合わせて、課題を論じる。
外国にルーツをもつ、医学的に診断された視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害などの子どもは、低い日本語があるため、学校生活の全体に支障があり、日本語の支援・指導と障害の特徴に合わせた支援・指導を平行して行うことで、学習面や行動面の困難を改善していく可能性があると思われる。しかし、医学的な診断を受けていないが発達障害の傾向がみられる、あるいは発達障害と診断された外国にルーツをもつ子どもの場合、日本語力の低さを背景とする困難と、障害特性を背景とする困難とを区別しにくいかもしれない。例えば、国語で、文中の語句や行を抜かしたり、または繰り返し読んだりする、音読が遅い、漢字の読み間違いや書き間違いが多い、算数の文章題で正しい式をたてられないなど、学習面の困難さの多くは、学習障害の特徴と一致する。日本語力の低さから生じているように見える学習面の困難さの中には、実際には学習障害が背景である可能性もあるが、どのように判別したらよいか、その方法が確立されていない。また、学校生活で、状況を理解できずパニックを起こす場合、日本語力が十分でないため状況を理解できなかったのか、発達障害が原因なのかを判別することは難しいかもしれない。
外国にルーツをもつ子ども、特に来日直後の子どもたちは、日本語がわからないため、学校の勉強についていけず、授業内容を十分に理解できないまま授業にただ参加していることがよくある。このような場合には、日本語学級の設置、日本語指導者の配置・派遣、日本語指導に必要な教材の提供など、様々な日本語指導や支援を受けて、子どもたちは日本語を上達させていく。日本語力の向上とともに、教科学習上の困難さは軽減され、授業参加がスムーズになるケースが多い。しかし、発達障害のある子どもの場合、低い言語力、異なる文化的背景などの要因に、障害特性の要因が複雑に絡みあって学習困難・授業参加が難しく、学習意欲、自信、自己肯定感の低下を引き起すこともある。例えば、外国にルーツをもつADHDの子どもの場合、学習や宿題の時において、集中し続けるのが難しい、さらに、言葉の理解が低くため、指示に従えず、課題や活動をやり遂げることができなく、学習意欲が低くなり、勉強を避けていくになる。外国にルーツをもつLDの子どもの場合、日本語指導を受けても、日本語力が向上することが難しい。語彙、読み書き、算数の習得にかかわる認知能力に弱さがあるため、通常の指導方法では十分な習得がのぞめず、繰り返し練習してもできるようにならないという負の経験を積み重ねてしまい、学習意欲や自己肯定感などの低下につながってしまう。外国にルーツをもつASDの子どもの場合、文章理解が苦手なASDの子どもは、算数・数学について、簡単な計算はできるが、日本語力の低さと文章理解の理解が両方の問題があるため、文章題が解けなく、授業がつまらなくなり、授業中に離席したり、絵を書いたりすることになる。
外国にルーツをもつ、発達障害のない子どもは、低い日本語力、母国文化と日本文化の違いや宗教の違いが原因で、ルールを守らない、友たちとの関係がうまくできないなど学校生活で不適応を生じる場合がある。しかし、多くの場合、日本語の上達とともに、ルールを理解でき、友たちとの関係も良くなる。しかし、発達障害がある場合、日本語力と障害特性の双方が不適応の背景となる可能性があるため、通常の説明や教え方で学校のきまり・ルールや遊びのルールを理解できない。特に、ASDの子どもは弱い社会性、強いこだわりなどの障害特性があるため、周りの友だちとのコミュニケーションが難しく、学校生活や対人関係でトラブルが多く、問題行動も生じやすく、日本の文化や生活も理解しにくい。また、日本語力が高くなっても、その時の場面や相手の感情や立場を理解できない、共感性が乏しい、良好な友達関係をうまくつくれず、休み時間や自由時間に一人で過ごし、強い孤独を感じ、長期にわたって不登校状態に陥る子どももいる。
外国にルーツをもつ子どもの保護者は、低い日本語力という言語の問題を抱えており、さらに、母国文化や習慣、考え方、育児の仕方が異なるため、教員と保護者の関係づくり、保護者への対応などに課題があることも多い。最近、保護者との面談時に、翻訳機器や通訳ボランティアの活用、多言語の学校生活ガイドの作成・活用など、様々な支援がされている。しかし、障害のある子どもの保護者と関係をつくる際に、言語やコミュニケーションの支障を解決しても、障害の理解、学習の内容や方法など学校教育における認識のずれがあるかもしれない。例えば、子どもに行動面の問題があるとき、保護者はその原因を「学校や教師の対応や接し方が悪い」、「自分の子どもに対する学校や教師の対応が、他の子どもへの対応と違う」などと一方的に決めつけ、あるいは、自分の子どもに障害があることや特別なニーズがあることを認めず、学校が「外国人の子どもを軽蔑している」と学校や教師を責めることもある。また、保護者自身の低い日本語力が原因で、学校と協力し合うことが難しくなることもある。一方、障害がある子どもをすべて学校の教員に任せ、子どもの教育を放棄する保護者や、学校の支援体制がないことを理由に子どもの就学を拒否する保護者も少なくない。
国際化の拡大に伴い、日本では幼稚園や学校に外国にルーツを持つ子どもが入園・入学することが増え、この中には障害のある子どもも多く含まれる。しかし、現状では、幼稚園・学校で障害のある外国人の子どもを受け入れる際にどのような支援をすればよいのかという行政レベルの指針はない。外国にルーツを持つ障害のある子どもに必要と思われる支援を以下に挙げる。
外国にルーツを持つ障害のある子どもが「学習面」と「行動面」の困難さを示した場合に、適切な支援を行うためにも、アセスメントを行って個々のニーズおよび困難さの原因を把握しなければならない。しかし、外国にルーツを持つ子どもの多くは日本語力が低いために、日本語で実施する知能検査や発達検査では正確に子どものニーズや特性を把握できない可能性がある。その場合、子どもの母国語で発達検査や言語検査を実施すること、あるいは、日本語の検査を母国語に通訳しながら検査することが必要である。また、保護者と面談を行い、移住する前の日常・学校生活の様子や、現在の家庭での様子を聴取することも必要である。さらに行動観察により、いま学校生活全体を把握することも必要である。
日本語での会話・読み書きが十分にできないと、他の子どもとの関わりや集団活動への自発的な参加などが難しい。そのため、日本語の学習指導・支援が必要である。しかし、学習障害のある日本人の子どもと同じように、語彙や読み書きの習得に必要な認知能力に弱さがある場合に、外国にルーツのある他の子どもと同じ指導・支援を行ったのでは、日本語がなかなか上達しない可能性がある。学習障害のある日本人の子どもに行われている語彙や読み書き指導・支援を参考にして、その子どもの特性に合わせた日本語指導・支援を検討しなければならない。また、ASDのある子どもには、日本語を指導する際、例えば、絵や母国語の文字などを視覚呈示することは有効である。ADHDのある子どもには、指導の途中で休憩時間を入れたり、難しい課題とやさし課題を混ぜたりする、注意してほしい部分に色をつけて目立たせるなど、その子どもの注意・集中力に配慮した対応をするとよいだろう。また、専門家により教員への「障害がある子どもの日本語指導ガイド」の作成し、教員が子どもに日本語指導をするとき参考になる。
外国にルーツを持つ障害のある子どもの場合に、日本語の理解力が向上しても、学校生活を送る中で規則やルールを自然に習得できず、学校生活に十分に適応できない子どもたちがいる。このような子どもたちには、以下のような視覚的な支援が有効かもしれない。
(1)写真カードと理解できる母国語の提示
発達障害である子どもに学校の一日の流れと遊びルールの理解に関する支援を行うとき、写真カードと理解できる母国語の説明を用い、同じ流れやルールの写真カードを2部作成し、家庭では保護者が母国語で一連の流れやルールを子どもに説明し、学校では活動ごとに、担任が写真カードを提示して当該の行動を促し、子どもが学校の一日の流れやルールを理解ができ、学校生活に適応できるようになる。また、学校規則を基に正しい行動と正しくない行動の写真カードを作成し、さらに、母国語の説明を加えることによって、学校規則の理解ができ、学校の日常場面で正しくない行動が見られないようになる。
(2)多国語の文字提示
外国にルーツを持つ障害のある子どもは個々の特別なニーズを持つ、幼稚園や学校の全体的生活を適応させるため、合理的配慮が必要となる。例えば、校内(園内)や学級内の掲示物や、活動や授業中教師の指示など、多国語の文字を並べて提示することによって、子どもがより学校生活しやすくなる。
外国にルーツを持つ障害のある子どもに対してより効果的な支援を実施するためには、保護者への支援体制、学校内の支援体制、教員の指導力向上のための研修体制、専門機関との連携、専門家のコンサルテーション体制など様々な支援体制の構築が必要である。
例えば、外国にルーツを持つ障害のある子どもの支援を行うとき、保護者の子育て支援、保護者の理解や協力を得ることはまず極めて重要である。幼稚園や学校は、様々な翻訳ツールの利用、保護者と面談するために通訳ボランティアの配置などによって、教員と保護者とコミュニケーションをよくとり、良い関係をつくることが大切である。保護者と定期的な面談の実施、保護者向けの母語版就学ガイダンス資料の作成、定期的な親子活動、子どもの特別ニーズの理解ための研修会、障害就学状況の把握と積極的な就学支援のための就学促進員の配置や活用など様々な支援体制を構築する必要がある。
また、校内委員会で外国人子どもへの支援について取り組む、外国人子どもへの個別指導計画の作成、外国人子どもへの特別な教育課程の編成・実施,日本語学習カリキュラムの作成など学校における外国人子どもの支援体制の構築、外国人子どもへの支援に関する教員の専門性向上を目的とした研修会の開催や全教員に対する外国人子どもへの教育実践事例検討会の開催など教員指導力の向上体制の構築、外国人子どもに関する情報を共有するため、地域内での連絡協議会の開催や地域内で外国人子どもに関する情報を共有するための連絡協議会の開催、学校所在地域の外国人団体との連携、専門家のコンサルテーション体制など、幼稚園や学校と地域住民、大学等の教育機関、企業との支援連携体制の構築など様々な支援体制を構築する必要がある。